敏感チョコレート

30代半ばの女性テレビマン。地上波で言えないようなことばかりが大好きです。

「これオチのない話で申し訳ないんだけどさぁ」で始まるテレビマン女子たちの会話

 

テレビマンの日常会話について書きます。

最終的には出会い系サイトの話になります。むしろそこが主題です↓

 

 

「これオチのない話で申し訳ないんだけどさぁ」

テレビ業界で働く女性はこのフレーズで会話を始める人が本当に多い。別に芸人でも何でもないのに、なんならクリエイティブとはあまり関係のないアシスタントプロデューサーやデスクさん(事務処理全般をする人)までこの言葉で話を切り出す。だからといってその後に続く話がひとりよがりな内容かというとそうでもなく、一般的に女性がカフェなんかでするようなとりとめのない普通の会話である。なぜこんな枕詞が必要なのか。

 

テレビ業界にいると「話の面白さ」へのプレッシャーをめちゃくちゃ感じることがある。よく「大阪人は会話にオチをつけたがる」というがそれに近しいことがテレビ業界でも起きている。テレビ番組の大半はエンターテインメント。常に面白い芸人さん・面白いディレクターが跋扈し新鮮な面白ネタを繰り出してくる世界である。しかもそれがお遊びではなく「仕事」なのだから真剣である。ときには血ヘドを吐く思いで面白いことを考えている。もちろんその「面白さ」というのはお笑いの面白さだけではない。ディープな世界やコアな知識といった面白さも含まれる。

 

そんな人たちなので日常会話の面白レベルも高い。たとえばオフィスで仕事中に何気なく始まったおしゃべり。数名のスタッフが自然と集まって始まる雑談である。時間にして数分だろう。その短い時間の中で、ある者は最近仕入れたゴシップを語り、ある者はそのゴシップに対してウィットに富んだ皮肉を言い、また別のある者は信憑性のカケラもないがとても刺激的な追加ゴシップを放ち、めちゃくちゃ盛り上がったところである者が巧みにオチを付けてひと笑いあって、「はー、仕事しよ」などと言って三々五々散っていくのである。これが日常である。別にゴシップばっかり話しているわけではないけれど。

 

テレビ業界で働いて10年以上になるが、私はこのテレビマンたちの雑談というやつが苦手である。嫌いなのではない。めちゃくちゃ面白いし楽しい。しかしその楽しいおしゃべりの構成員として自分はしかるべき振る舞いができるのか常にプレッシャーを感じてしまうのである。銃撃戦のように目の前を行き交う面白フレーズの弾丸を見ながら、自分はどんな言葉を放てばいいのか。話の流れを止めたりはしないだろうか。とんちんかんなことを言ったりしないだろうか。戦々恐々である。やむなく黙って話を笑いながら聞くだけのことも多々ある。そんなときはなんとも不甲斐ない気持ちになってしまう。私はなぜここにいるのだろう、と。自分の話がウケて笑いが起きたときは心底ホッとする。私はここにいてもいいんだ、と。

 

こんなことを書くと自意識過剰じゃないかとかブラックな職場じゃねーかと思う方もきっといらっしゃるだろう。しかしどんな形であれクリエイティブの世界を志した者にとっては、自分が面白いことを話せる人間であるかどうかということは自身のアイデンティティを揺るがしかねない需要問題である。特にテレビ界という、他者と関わることが必要不可欠な世界では。しかし注目したいのはその感覚が冒頭で話したようにクリエイティブでない女性にまで影響していることである。これは大問題である。なぜなら、こんな感覚で日常会話をしていては、彼女らは婚期を逃しかねないからである。

 

いまやマッチングサイトで恋人を探すことは珍しくもなんともない。テレビ業界の多くの女性たちも、特に若い世代は平気で恋人やら今夜のご飯の相手やらをマッチングサイトで探している。そんな中「1回めのデートは良かったんですけど2回めのデートが全然おもしろくなかったんですよね」と、ボヤく女子たちがなんと多いことか。彼女らが利用しているマッチングアプリは登録に年収や顔面偏差値などの審査が必要なアプリで、いわゆる「ハイスペ男子」がわんさかいるやつである。そう、あのいろんな美味い店を紹介する媒体が作った港区ナンチャラたち御用達のアプリだ。そこにいる男子たちは一見、キラキラしている。出会った瞬間はテンションがぶち上がり、将来への妄想が一気に広がる。ボーイミーツガール土曜日遊園地一年経ったらハネムーンである。しかし迎える2回めのデート。急に彼女らの心にふと冷たい風が吹く。「あれ…この人の話、つまんない」。私も経験があるからわかるのだが彼らの話はけしてつまらないわけではない。「普通」なだけである。普通に最近おもしろかったテレビの話をし、普通に趣味の話をし、普通に友人の話をする。ただそこに「おもしろくしよう」とするための工夫は特にない。起承転結に凝ったり、タメをつくったり、擬音で臨場感を作ったりという相手を楽しませる工夫がないのである。しかし…、普通の人は、そんなことイチイチ考えながらしゃべらない。むしろそれがスタンダードな日常会話である。テレビ業界で働く女性たちは日々、面白い人達の面白いおしゃべりに触れすぎていて完全に感覚が麻痺しているのである。面白不感症である。

 

なので、付き合う相手や結婚相手に面白さを求めてしまうと非常に可能性は狭まってしまう。じゃあ同業者と付き合えばいいじゃないかと思う人もいるだろうがお察しの通り、テレビマンの男性は遊び好きである。しかも毎日のようにキレイな女優さんや可愛いアイドル、セクシーなグラビアタレントと一緒に仕事をしているため、あちらさんはあちらさんで感覚が麻痺している。少なくとも手の内知ったる同業女性に行くほど女には困らないし、そんなリスキーな交際はしたくないはずである。

 

そんなわけで、面白不感症なテレビマン女子たちはもう、男性に面白さを求めることはやめたほうがいい。その先に行くべきだ。「私が面白くしてあげる」という思想を持つべきである。相手がこちらの話で笑顔になってくれたら嬉しい、という感覚を持つのだ。別に女芸人みたいになる必要はない。さっきも述べたが面白さとはお笑いの面白さだけではない。教養とか知識とか、情報が生み出す面白さを提供するのである。話し方も少し工夫するだけで相手の興味を引くような話し方ができるはずである(その話はまたいずれ)。

 

とはいえ、ね。しゃべるのってそれなりにしんどいですからね。できれば面白い男の話を笑って聞いてるだけのほうがいいですよね。

 

以前、私が同業のテレビマン男性と付き合っていたとき、自分の面白さに全く自信がなくなって「私なんて全然面白くない才能ない生きている価値ない」とド深夜に泣きじゃくったとき「大丈夫だよ、お前の話には全部俺がオチをつけてやるよ」と言われ、ああもう私、一生この人についていこうと思ったことがありました。結局すぐ別れたんですけどね。この長い文章にもこの程度のオチしかつけられない私ですが、デートのときはなるべく楽しいおしゃべりができるよう今も努力しております。